「心ふるえる詩」
~金子みすゞの詩を読まれたことはありますか?(第2回)
1 はじめに
皆様、こんにちは。弁護士篠木潔です。
さて、前回のブログでは、私と金子みすゞの出会いについてお話しました。
今回は、金子みすゞの詩集の中で私が大好きな詩をいくつかご紹介させていただきますね。
2 皆様はどの詩がお好きですか?
私は好きな詩が多くて選ぶのに苦労するのですが(笑)、以下の詩はいつ見ても心がふるえます。これらの中で私が一番好きな詩は・・・・。??
これは最後に申しましょう。
皆様も以下の詩の中から最も好きな詩を一つだけ選んでみてください。
【蜂と神さま】
蜂はお花のなかに、
お花はお庭のなかに、
お庭は土塀のなかに、
土塀は町のなかに、
町は日本のなかに、
日本は世界のなかに、
世界は神さまのなかに。
そうして、そうして、神さまは、
小っちゃな蜂のなかに。
~とてもスケールが大きく宗教観・宇宙観を漂わせる詩です。その最大スケールの神様を、一挙に小っちゃな蜂の命へと返していく跳躍と着地が実にみごとです。「そうして、そうして」と間をとり、主語の「神様は」をわざと行の一番下にもってきて、最後は小さな蜂だけで締めくくる。こうすれば、どんなに小さな生き物の命にも神が宿っていることを上手に伝えることができますね。小っちゃな蜂の中にも神様がしっかりといらっしゃる。それで勇気や安心感が出てきますし、また、だからこそ簡単に壊れてしまいそうな小っちゃな命をも大切しなくちゃという思いが出てきます。これが金子みすゞのメッセージなのかもしれませんね。~
【積もった雪】
上の雪
さむかろな。
つめたい月がさしていて。
下の雪
重かろな。
何百人ものせていて。
中の雪
さみしかろな。
空も地面もみえないで。
~積もった雪を擬人化して3つの部分に分け、その気持ちを思いやる着想がおもしろいです。「上の雪」と「下の雪」のつらい気持ちは何となく理解できます。しかし、真ん中だから寒くないし重くもないので良さそうだと思われる「中の雪」が、そんな気持ちを抱いているだなんて思いもよりませんでした。世の中には私達の気づかない悲しみやつらさがたくさんあるのでしょうね。それを思いやる力が果たして自分にあるのでしょうか。ふとそう思わせてくれる詩ですね。雪を見るといつもこの詩を思い出します。~
【私と小鳥と鈴と】
私が両手をひろげても、
お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のように、
地面を速くは走れない。
私がからだをゆすっても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のように、
たくさんな唄は知らないよ。
鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがって、みんないい。
~この詩は小学校の国語の教科書にも載っている有名な詩です。一人ひとりの個性や違いを大切にするとともに、誰もがかけがえのない存在であるという、ゆるぎない確信が最後の行に表れています。短く生き抜いたみすゞの確信でしょう。それも「人」を超えて「みんなちがって、みんないい」と言い切っているところが気持ち良いです。なんてことないフレーズですが、とても力強く説得力がありますよね。
また、最後から2行目と題名とを見比べてみてください。私は最後から2行目の「鈴と、小鳥と、それから私」が題名の「私と小鳥と鈴と」と順番と逆になっているところも好きです。みすゞはどうしてそのようにしたのでしょうね? みすゞに尋ねてみたいです。~
【露】
誰にもいわずにおきましょう。
朝のお庭のすみっこで、
花がほろりと泣いたこと。
もしも噂がひろがって
蜂のお耳へはいったら、
わるいことでもしたように、
蜜をかえしに行くでしょう。
~なんとも可愛いみずみずしい詩ではありませんか。おとぎ話の世界です。ほろりとこぼれ落ちた露は花の涙なのでしょう。わるいことでもしたように、蜜を返しにいくであろう蜂も優しいし、誰にも言わずにおきましょうというまなざしも温かい。身近な庭の隅っこに、誰も知らないこのように気遣う世界があるのですね。それを七五調の優しい音律で教えてくれています。わずか6行の詩ですが、みすゞの優しいまなざしに涙が出そうです。この「露」は私が一番大好きな詩です。
~
皆さまはどの詩がお好きでしたか?
皆さまもぜひ金子みすゞの「詩集」を手にしてみてください。みすゞは様々な対象をモチーフに、雰囲気も変えていろんなことを私たちに伝えようとしてくれています。このため、同じ詩でもその時々で私たちの感じ方や詩の味わいが異なる場合もあります。それゆえ、みすゞの詩は大切なことをたくさんたくさん教えてくれますよ。
詩や歌は静かに私たちを支える力になってくれます。
私は、こんなに素晴らしい詩を書く金子みすゞに一度会ってみたかったです。
弁護士篠木潔
(詩の出典「金子みすゞ童謡全集」(JULA出版局)より)