みらいわブログ 2024年1月号

私の今年の目標~今年はこれまでとは少し違ったことをやってみる

新年明けましておめでとうございます。

今年も「みらいわ」をよろしくお願い申し上げます。

1 さて、皆さまは新年の目標はもう立てられましたか?

私は2つ立てました。

まず1つ目は、最近運動不足でお腹が出てきてズボンが窮屈になってきましたので、今年こそはスポーツジムに通って体型的に若返りを実現し、少し格好良くなろうと思っております。それに人生100年時代の今、健康寿命こそが一番大切なので、今年を私の「健康寿命元年」にしたいと意気込んでおります。

2 それともう1つは、これまでやってこなかった自分なりの社会貢献として、セルフネグレクトの方への支援に取り組もうと考えております。

皆様は「セルフネグレクト」という言葉をお聞きになったことはございますか?

「ネグレクト」とは「放置・放任」のことです。

3 セルフネグレクトとは、人が人として生活において当然行うべき行為を行わない、あるいは行う能力がないことから、自己の心身の安全や健康が脅かされている状態に陥ることをいいます。ゴミ屋敷問題などもこれに含まれます。

原因としては、認知症や精神疾患などにより認知・判断能力が低下したこと、病気、世間体や気兼ね、他者の世話になりたくないというプライド、性格上の問題、引きこもり、地域社会からの孤立、身近な人の死などの人生に起きるショックな出来事による生活意欲の低下など様々です。

実はこのようなことは誰にでも起こりえ、他人事では決してないのです。最近では若者や4~50代の人にも増えており、一人暮らしの人だけでなく、例えば老老介護で疲弊してしまい、やがては家族ごと社会から孤立してしまうなど、家族と同居している場合でも起こっています。最近顕在化しているヤングケアラー(家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている18歳未満の子どものことを言います)の問題もセルフネグレクトと無縁ではありません。

このため、対策に乗り出す自治体も出てきており、実証的な研究も徐々に進んいるようですが、セルフネグレクトは支援が遅れている、あるいはなかなか進まない分野と言っても過言ではありません。。

4 セルフネグレクトの問題点は、自分自身の健康や安全を脅かす、自己による人権侵害行為であるという点と、近隣を脅かす行為でもあるという点です。

そして最も悩ましいのが、本人が支援を拒否している場合も少なくなく、人権(自己決定権)を行使しているという点です。それゆえ、行政その他の支援者が手を出しにくく、支援をやりすぎるとセルフネグレクトの方の自己決定権を侵害するおそれさえあり、支援を躊躇する事例も少なくないようです。しかし、それは他方で、「支援者によるネグレクト」へと発展しかねません。

その方の自己決定権と生命・健康とではどちらが大切なのでしょうか?

セルフネグレクトは、ある意味、ご本人がご自分の意思決定の下で行われているので、支援者として、どのようにして、どこまで介入すべきかについては、とても難しい課題です。

ところが実は、ご自分の現状をしっかり理解して本当の意味での「自己決定」をしている方ばかりではないということも明らかになってきています。それは、誤った思い込みのために支援がなくても大丈夫と勘違いされている方、他方、そもそも何らかの原因で支援を求める力がなくなり、自己決定をできない方もいらっしゃることが分かってきたのです。それゆえ、問題はとても複雑です。

また、セルフネグレクトはご本人が支援を拒否されていることから、そもそも支援に繋がっていない事案も多く、手遅れとなって孤独死に至る場合もあります。  なので、セルフネグレクト問題は、世間ではこれまであまり知られて来なかったのですが、かなり深刻な無視できない社会の課題だと私は思うのです。

このため、どのようにすれば支援を拒否する方と繋がることができるのか、そのための心構えやスキルはどういうものか? これらも支援者はもちろん地域住民の方々にも重要な課題となってきます。

 

5 このような思いから、福祉や医療の現場で近年問題化しつつあるセルフネグレクトをテーマに、その現状、原因、類型、問題点、対応策、今後の課題等について、皆で議論を深めるべく、私が実行委員長になって下記のとおりシンポジウムを開催することといたしました。

このテーマは、法律問題ではなく、どちらかと言えば福祉や医療や地域の問題ですので、弁護士の私にとっては、セルフネグレクトの支援を行う専門職の方々を後方から支援する取り組みということになります。

そこで、私といたしましては、直接的には弁護士の業務とは言えないのですが、このシンポジウムを契機として、他の分野の専門職の方と研究や実践を重ねて、セルフネグレクトの方々への支援に取り組もうと考えた次第です。

6 この26年間、弁護士業務にほとんどの全ての時間を割いて人生を歩んできました。しかし、私も還暦を過ぎましたので、視点を少し変えて「わたしは何ができるだろう?」という気持ちで、少しだけですが社会に役立つかもしれないこと(またはその真似事?)をしてみたいと考えました。

限られた時間の中における人生ですので、プライベートも含め、今年からはこれまでとは少し違ったことをやってみたいものです。

それでは、皆様、今年も「みらいわ」をよろしくお願いいたします。

弁護士法人 翼・篠木法律事務所

代表弁護士 篠木 潔

 

九州弁護士会連合会 高齢者・障害者支援に関する拡大協議会

シンポジウム「セルフネグレクト~支援を拒否する人への支援を考える」

 

■開催日時:令和6年2月17日(土)13:00~17:00

■研修会場:会場・福岡県弁護士会館2階大ホール+Zoomウェビナー配信

(福岡市中央区六本松4丁目2番5号)

■定  員:会場150名+Zoom500名

■参加費用:無料

■対象者:医療・介護・福祉職、行政職、法律職、一般の方々

■申込の要否:必要

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参加ご希望の方は、下記URLの申込フォームまたはチラシのQRコードよりお申込ください(締切:令和6年2月5日)

こちらから→

https://forms.gle/j8PMCgKFzTeLTDFS9

 

福岡県弁護士会のホームページからも申し込みができます。

こちらから→

https://www.fben.jp/whatsnew/

 

シンポジウムチラシもダウンロードできます。

こちらから→

https://www.fben.jp/whatsnew/pdf/fb20240227.pdf

 

以 上

みらいわブログ 2023年2月号

「幸福学」事始め(第2話)

 

先月に続き、今月も「幸福学」の話をさせていただきます。

 

一 すぐに手に入ること、楽しみすぎることと幸福度の関係

 

多くの調査や実験で、いつでも手に入ると思うと、人は価値を感じなくなる、あるいは楽しみを与えすぎると感謝しなくなることという結果が出ており、このことが幸福度に影響を与えることが分かっています。

 

(調査)

あるグループには1週間チョコレートを禁止し、もう一つのグループには1週間好きなだけ食べなさいと伝えたところ、1週間後再びチョコレートを食べてもらった結果、うれしい・楽しいという感情は、後者のグループは減り、前者の方は上がっていた。

 

つまり私たちも、短期間でも好物を我慢すれば、楽しみを感じる能力が一新されるということです。

しかも嬉しいことに、これはほんの一瞬、間を開けるだけでも効果があるとのことです。

 

(研究)

最新の研究では、マッサージは休憩を挟んだ方が満足感が高いという結果が出ている。

 

したがって、幸せを大きくするためには、いつも身近にあるものを、時には使わずに、時にはご褒美として利用したり、好きなものならそれを控えめにして、とっておきのご褒美としたりして、楽しみを膨らませることが重要です。

私も毎日飲んでいたビールを1日おきに飲むことにました。すると、ビールがとてもありがたく感じられ、夜ごはんの晩酌時の幸福度が大きく上昇しましたよ。

 

二 仕事と幸せの関係~仕事の満足を高めていく方法とは?

 

1 「仕事の意義」を考えてみる

アメリカのエモンズという博士の研究によれば、有意義でエネルギーにあふれる人生には4つの要素があるそうです。

その4つの要素とは、「仕事」、「目先の利益を超えた理想」、「高い目的意識」、「社会とつながっているという実感」だいうことです。その中で博士が重視したのが「仕事」でした。

確かに、仕事は、ある面では、社会とのつながりを深め自己実現をするための手段なので、仕事をすることはまさに幸せにつながるためのものであると言ってよいでしょう。

この点、人はついつい目の前の仕事だけを意識しがちになるのですが、そうではなくて、仕事をするときにそれを俯瞰して、自分は何をやっているのかを見て、考えることが幸せのために非常に重要だとのことです。

 

例えば、レンガ職人の例で言えば、単に大聖堂を作っているのだと思うのか、さらにこの大聖堂を作ることによって人々を幸せにするんだと思って仕事をするかによって幸福度が変わるのだそうです。

 

2 仕事を自分の幸せに結びつける方法とは?

 

エール大学のエイミー・レズネスキー准教授による研究によれば、仕事は、人が仕事に対してどのような意識を持っているかによっての3つの分類に分けられるとのことです。それは「ジョブ」、「キャリア」、「コーリング」です。

 

① 「ジョブ」

仕事を単なる労働と位置づける考え方で、働く理由は報酬であり生活のためでもある。多くの人がこのような「ジョブ」として働いています。

しかし、もっと幸福度が増す働き方があるらしく、それが次の「キャリア」です。

② 「キャリア」

この働き方による働く動機は「経歴」や「向上している」という実感です。目の前の仕事をもっといいものに結びつけようとする。そのような意識で仕事をするともっと幸福度が上がるとのことです。

ところが、もっと幸福度が増す働き方があるようです。それが次の「コーリング」です。

③ 「コーリング」

これは、仕事をいわば「天職」と考え「社会の役に立っている」「自分の仕事には深い意味がある」という実感が働く動機になっている働き方です。

例えば病院の清掃員について考えると、単なる労働だと思って掃除をするのではなく、病院をきれいにすることで皆が健康でいられる手助けをしているという意識を持てば、コーリングになって、幸福度が増すというわけです。

 

もちろん、これらの仕事に対する3つの意識は固定したのではなく、状況によって変わっていくものとされていますが、この3つの考え方の中で最も幸福度が高いのが「コーリング」であることは、私たちが働く際のちょっとした意識の変化によって幸せな仕事の時間を得られるということでもありますので、とても貴重なスキルですよね。

皆様も少しだけ、以上のようなスキル(意識の変化)を用いて、仕事の面でも幸福度を上げてみませんか?

 

3 やりがいを見出す仕事の仕方とは?・・・ジョブ・クラフティング

 

上記の2とは異なる視点で仕事にやりがいを見出す方法があるようです。

 

①社会的な交流の質や量を見直す

仕事に関わる人との関係の性質を変えたり、範囲を広げたりしていく行動です。客や同僚などの人間関係を積極的に変えてその幅を広げていくと、より仕事の手ごたえを実感し、業務をスムーズに進行することができるそうです。

例えば、コンビニの店員が積極的に客と会話し、それを地域の人や地域そのものと結びつきを築く行為であると考えたりすること等です。

 

②仕事の意義を広げる

仕事や作業が社会や他者に貢献している意味を再構築すること、担当している仕事の目的を広い視野で見直すこと、もっと俯瞰的に大きな観点から意味を構築し直すことで、喜びの感じにくい仕事も有意義な仕事に思えるようになるそうです。

例えば、ある空港のシャトルバスの運転手が、自分が旅行業界の一員だと考えている、客が喜んでいる様子を想像して自分の仕事に意義を見出す等です。

 

③仕事の内容や範囲に手を加えてみる。

自分の仕事に対して、より価値を求めてやりがいが持てるよう内容を少し変化させる、仕事を楽しめるようアレンジしてみることも有意義だとのことです。

例えば、患者をケアする病棟の清掃員が病棟の壁にかけられていた2枚の絵を時々入れ替えるなど。

 

私も弁護士としての仕事に、このような方法(スキル)を取り入れて楽しく仕事をしたいものです。

 

4 幸福度と仕事の能力との関係

 

ある調査実験では、幸福度が高い社員は幸福度が低い社員に比べて、創造性が3倍高く、生産性は31%、売り上げは37%高いことが明らかになったようです。

これもとても興味深い結果ですね。

 

三 幸せを導く人間関係とはどんなものでしょうか?

 

1 人生満足度と年齢との関係

人は歳を重ねるうちに精神状態が安定し、人生満足度も上がっていくことが分かっているようです。ネガティブな感情も若い時より減少していくそうです。

だとすれば、年をとることもまんざら悪いものではなさそうですね。

 

2 温かな人間関係は幸福度を高める

 

(研究調査)

ハーバード大学が75年という長期にわたり「人の幸福度に影響与える要素」について研究した「ハーバードメンの研究」によると、幸福度が高いトップ10%の人々は、「温かな人間関係」を築くことができていたという事実が明らかになった。

トップ10の人々は、温かな人間関係を築くことができなかった人々と比較して、年収が高く、専門的な分野で成功を収めた人も3倍多かった。

 

幸福度や仕事での生活に最も影響を与える要因は何かというと、「温かな人間関係」を築くことができたかどうかだったようです。

 

また、「温かな人間関係」には「親と子」の関わりも含まれるとのことで、この研究では、幼年期に母親との温かな関係が築けていた人は、そうでない人に比べて年収が約870万円も高いという驚きの結果も明らかになったそうです。興味深い研究ですね。

 

① 温かな人間関係を築くために必要なことは何か?

それは「人を愛する能力」だとのことです。

この「人を愛する力」を強化する方法は「オキシトシン」というホルモンを増やすことだそうで、オキシトシンの脳内の分泌などが上がると、人を好きになる、人と仲良くしたくなる、人に共感する、人に親切になる、人付き合いでの不安が減少するそうです。

 

② オキシトシンを増やす方法

では、どうすればオキシトシンがたくさん分泌されるようになるでしょうか?

その方法は・・・

 

⑴ スキンシップ

人と直接触れ合うことでオキシトシンが分泌されるそうです。効果的なのは8秒間ハグをすること。動物とのスキンシップでもオキシトシンが分泌されるそうです。私は猫を飼っているのですが、確かに思い当たる節があります。

 

⑵ 心温まる映画を見る

人間の脳には「ミラーニューロン」という神経細胞があり、視覚から入り込んだ情報を自分の体験のように認識するそうで、それを利用する方法です。

 

⑶ 1日1善ではなく「週1に5善」を実行する

 

(研究)

カリフォルニア大学の研究で、毎日親切なことをするよりも、1週間のうち1日と決めて集中的に人に親切にした方が幸福度が高まることが分かっている。

 

これも面白い研究結果ですね。私もこれを真似してみます。

 

3 幸福を呼ぶ人と関わる些細な方法~実際に外に出て自分自身をより幸せにしましょう

 

自分が誰かにした親切を数えること。今日一日自分がした親切を書き留めたりつけること。ドアを押さえてあげるとか、コーヒーをいっぱいおごるとか、小さなことで構わない。こういう行動が幸福度を上げることに一役買うそうです。

皆さん、ささやかな無償の親切を実行してみましょう!

 

4 一人の人間の幸せは、周囲の人たちに伝染する力を持っている

 

(調査)

ハーバード大学の学者が5万人を対象に幸福が伝わるネットワークの有無について調査したところ、幸福度が高い人たちの近所に住む親族や知人は、その人と同様に幸福度が高いことが分かった。逆に幸福度が低い人の周りには同じように幸福度が低い人が集まっていることが分かった。

 

このことから分かるのは、いかに人や社会との結びつきが重要であるかという点です。幸福も不幸も伝染する。なので、どういう人と友達になるかは慎重になった方がいいですね。

 

(研究)

アメリカ・マサチューセッツ州の研究では、知人を介して自分がどれだけ幸福感を得ることができるかという調査で分かったことは、「親しい知人」が幸福だったとすると自分の幸福度はおよそ15%上昇する。「知人の知人」が幸せだった場合でも自分の幸福度は8%ほど上がることが判明した。

 

このことから、大事なのは人と付き合うことだということが分かります。そうすれば幸福な人とも出会うことができるからです。幸福な人は、お互い支えることも支えてもらうこともできます。皆さんがうまくいった時もいかない時も、そばにいてくれる人です。なので、仲間の幸福で皆さんも幸福になれるというわけです。

 

5 どんな人と結びつきが深いと、より多く幸福を感じられるのでしょうか?

 

(調査)

ある調査結果によれば、それは親友、家族、恋人だったそうです。

 

(調査)

日本の内閣府の調査によると幸福感を高めるのに有効な手立てとして最も多い答えは、家族との助け合い。次に友人。そして地域住民、職場の同僚という順番だったそうです。

 

(調査)

さらに別の調査によると人間関係の量が人を幸せにするのか、それとも質が影響するのかを調べたところ、量はそれほど関係がなく、人間関係、特に友人関係の多様性が幸福に影響することが分かったそうです。

(アメリカの例ですが)異なる職業、国籍、性別を持つ多様な友達を持っている人が幸せである傾向が高かった。それは友達の数と幸せの相関よりも強いことが分かったそうです。

 

(研究)

また別の研究によれば、自分の弱みを見せられる人や困ったときに頼れる親友が1人か2人いれば、それで充分幸福になれることが分かっています。

皆様にはそんな人はいますか?

 

また、物事がうまくいかないときに人からサポートを受ける事はもちろん幸福度を高めることにつながるが、実は大切なのは、物事がうまくいったときにそばにいてくれる、一緒に喜んでくれる人がいるかが重要だということのようです。

 

(調査)

恋愛に関する調査では、嬉しい出来事を恋人と共有し、成功を喜び合いたいと思った時に、相手が関心を示さなかったカップルは別れることが多いという結果が出たそうです。

私も気を付けたい点ですね。

 

四 最後に

 

幸福学は様々な観点から考察が進んでいます。

例えば、夫婦関係やパートナーとの関係をいかにして幸福に結びつけるか? 職場や組織における幸福学、居住空間と幸福度の関係、町づくりと幸福感、製品開発と幸福学、幸福感とホルモンの関係など様々です。

 

私の2回に渡る幸福学の話はほんの一例に過ぎません。このためタイトルも「『幸福学』事始め」といたしました。

 

そこで、皆様におかれましては、これを機会に「幸福学」を学ばれ、幸福度を高めるヒントやレシピを見つけて、幸福感を感じる将来の安心術として活用して下さい。

 

そして、ご自分や家族や周りの人たちの幸福感を高めるとともに、皆様のお仕事や日常の中で出会った困難のある方々を、少しでも幸福感を感じることがきるよう役立てていただければ幸いです。

 

《以上は、「『幸せ』について知っておきたい5つのこと~幸せとは技術である。習慣を変えるだけで人生は9割変わる。」(NHK「幸福学」白熱教室 中経出版)と「99.9%は幸せの素人」(星渉、前野隆司共著 株式会社KADOMAWA)より。》

 

弁護士法人 翼・篠木法律事務所

代表弁護士 篠木 潔

 

みらいわブログ 2023年1月号

「幸福学」事始め(第1話)

 

新年明けましておめでとうございます。

今年も「みらいわ」をよろしくお願い申し上げます。

 

さて、皆さまは「幸福学」という言葉をお聞きになったことはございますか?

最近、私がとても注目している学問です。

 

一 幸福学とは?

 

幸福学とは 従来、幸せの研究は哲学者がやるものだとされてきました。ところが、最近、客観的かつ統計的に、科学として幸せを研究しようという機運が高まり、現在は、様々な分野からのアプローチが学問として体系化されようとしています。

幸福学とは、個人が自分の力でずっと続く幸せを感じる方法を見つける手助けをする学問です。

人が幸せを感じるメカニズムを解明できれば、より多くの人に幸せになるメカニズムを実践してもらえることになり、社会全体がもっと幸せになります。そのような画期的な学問です。

幸福になれるか否かは、実は生まれ育った境遇や運によるものだけでなく、ある意味スキルの問題だということです。

 

二 幸福の測り方

 

1 人生満足度尺度

 

人が求める幸福の内容は、もちろん個々人によって異なりますが、幸福学では「幸福感」や「幸福度」に焦点を当てて「幸福」を数値化していきます。

有名なものとして、アメリカのエド・ディナー博士の幸福度を図る「人生満足度尺度」というアンケートがあります。それは以下のようなものです。

 

【質問内容】

①ほとんどの面で私の人生は理想に近い。

②私の人生はとても素晴らしい状態だ。

③自分の人生に満足している。

④これまで自分の人生に求める大切なものを見てきた。

⑤もう一度人生をやり直せるとしても、ほとんど何も変えないだろう。

 

これらの5つの質問に対して、全く当てはまらない(1点)、ほとんど当てはまらない(2点)、あまり当てはまらない(3点)、どちらとも言えない(4点)、少し当てはまる(5点)、大体当てはまる(6点)、非常に当てはまる(7点)として採点して、人生満足度を比較する方法です。

 

2 国連の世界幸福度報告

世界幸福度報告とは、国連が設立した非営利団体「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)」が毎年発表しているもので、150以上の国・地域に住む人々から社会的支援の充実度や人生の自由度などの自己評価値を集計し、各国・地域の「総合幸福度」「一人当たり国内総生産」「健康寿命」「社会的支援」「人生の選択自由度」「他者への寛容さ」「国への信頼度(腐敗を感じる程度)」を数値化していくものです。

2022年の報告では、総合幸福度ランキングの第1位はフィンランド、2位はデンマーク、3位はアイスランドです。フィンランドは5年連続でトップです。ちなみに日本は54位とあまり高くはありません。

 

3 幸福学における幸福の測り方の特徴

幸福学の進展に伴って様々な調査アンケート内容が考案されていますが、個々人の望む幸福が人によって異なっていることを踏まえて、幸福を「人生満足度」や「幸福度」として汎用性のある内容として測定していることが特徴的です。

 

三  では、幸せな人の共通点とは何でしょうか?

 

アメリカ人のある学者が、幸福度の高い人たちを集めて研究し、彼らを幸せにしていものは何か、すなわち幸福を見つける鍵を突き止めようとしました。その結果、幸せな人たちの共通点は、以下のようなものだったそうです。

1 1つ目の共通点は「人との結びつき」であり、友人や家族などと良好な関係を築き、人との結びつきが強いということでした。

例えば、コンビニの店員と話をするという関係でも幸福感が増える。しかもそれは外交的な性格の人たちだけでなく、内向的な性格の人たちも幸福感が増すのだそうです。

2 2つ目の共通点は「親切」でした。

なので、人と交わるだけでなく、人を助けようとする社会的な行動をしてみることが幸福にとって大切なのだそうです。この観点から、例えばボランティア活動などは他者だけでなく自分も幸せにしてくれることが分かったそうです。

そして、この調査では「親切」と対をなす「感謝」するという気持ちが幸福と密接につながっていることも分かったそうです。

 

(実験)

あるグループには週に1日、10週間の間ごく普通の日記を書いてもらい、別のグループにはどんな小さな事でもいいので感謝の気持ちを綴る「感謝日記」をお願いしたところ、後者のグループは前者のグループよりも驚くほど幸福感が増した。

 

これらの実験で分かったことは、人に親切にし、感謝の気持ちとその時間を持つことが人を幸福にするということでした。だから私たちもそれを実践すると幸せになれるということです。

3 3つ目の共通点は、「内容に関係なく、目の前のことに集中する、今この瞬間に集中すること」だったそうです。

このような行動が幸福感を増すことにつながることが判明したのですが、それは科学的な根拠のあるストレス軽減方法として、世界中で広まっている瞑想やマインドフルネスとも関係する発見でした。私もマインドフルネスを実践していますが、以前よりもあまりストレスを感じなくなってきております。

 

四  幸福と遺伝子の関係と行動の重要性

 

実は、最近の研究では、遺伝的に他の人より幸せになりやすい人が存在することが分かってきているようです。

ところが、心配はいりません。そうでない人も幸福感につながる行動を意識的に取ることで幸福度が上がることも分かっています。

しかもそうやって得た幸福感は、職場での生産性が上昇するという効果だけでなく寿命にも影響することが分かってきているのです。

つまり幸福感は単に人の気分を良くするだけでなく、多くの恵みをもたらしてくれるということです。なので、「幸福学」を学ばないという選択肢はないと思う次第です。

 

五 お金と幸福の関係~お金は私たちを幸せにしてくれるのでしょうか?

 

1 高収入は幸福をもたらすのでしょうか?

 

結論的には、多くの調査結果をまとめると、お金持ちと貧しい人を比べてみても両者の幸福度に大きな差はないことが分かっているようです。

ある一定の収入(日本では700〜800万円)に達するまでは幸福度は高まるそうですが、それを超えると収入額による幸福度の高まりは頭打ちになるようです。年収が2倍になっても幸福度はたった9%しか上昇しないとの調査結果もありました。

 

2 お金の使い方と幸福の関係(その1)・・・経験や体験に使う

ところが、他方で「お金の使い方」次第で幸福度が増すことも分かっています。

少額でも構いません。何回そういう使い方をしたかという「頻度」が重要だとのことです。つまり、誰もが今の収入の範囲内でできるので、お金の使い方で誰もがより幸福になるということです。

 

(調査)

これまでの人生を振り返って、嬉しかったこと、感動したことは何かを答えてもらう調査をしたところ、物を買って感動した、うれしかったという回答はとても少なく、多くの人が体験や経験を挙げていることが分かった。

 

その原因は、物を買っても幸福感は一時的なものに過ぎず、時間が経てばそれに慣れてしまうので長くは持続しないし、その後に物が古くなってしまったり、自分よりも良い物を人が持っていることを羨ましがったりするなど、残念な出来事が待ちうけている場合が少なくないからだと考えられています。

 

ところが、多くの調査では、「物」ではなく「経験」を買う、つまり経験のためにお金を払う方がより幸福度を得やすいという結果が出ています。その理由は、記憶に残り、自分だけの個性を感じ、他人と社会的価値を共有するからだと言われています。

したがって、単に物を買う場合も、その物質的な機能よりも、それによってもたらされる「経験」に着目してそれを感じることが大切だということです。

 

3 では、どんな種類の経験にお金を使うと、より幸福度が高くなるのでしょうか?

この点については、科学的に証明されている「幸福度が高まる経験の4条件」というのがあるようです。それは・・・

 

① お金を使うことで、他の人との関わり、新たな知人や友人が増えたり、世の中とのつながりが実感できる経験。

② お金を使うことで、この先何年も楽しい気持ちで「繰り返し語ることができる」思い出となる経験。

③ お金を使うことで、自分自身で思っている理想とする自分のイメージ、あるいは「自分がなりたいと思っている自分像」につながる経験。

④ お金を使うことで、他の事とは簡単に比較することができない「めったにないチャンス」を得られる経験。

です。

 

そして、お金を使って得られる経験をしている際の「時間の長さ」は、幸福度にあまり関係ないそうで、短時間でも構わないようです。その理由は、経験をした後に(例えば、旅行から帰ってから)「思い出す」事でも幸福感が得られるからだと考えられています。

 

上記の4つの条件のうち1つ以上を満たす経験にお金を使うことは、今だけでなく、これから先、将来も幸せにしてくれるということですね。

 

4  お金の使い方と幸福の関係(その2)・・・他人のために使う

 

様々な調査や実験で、「他人のためにお金を使う」ことで人は幸福や喜びを感じることができることも分かっています。

 

(実験)

ある大学で学生達に現金を渡し今日中に使ってほしいと頼み、1つのグループには自分のために使うこと、もう1つのグループには人のために使うことと条件をつけた。すると自分のために使った学生よりも人のためにお金を使った学生の方が幸福度がはるかに高くなっていることが判明した。

 

このことは、豊かな国でも貧しいでも同じ結論だったようです。

また、他人のために使う「金額の大小」は幸福感にはさほど影響しないことも分かっています。それは与える喜びは人間の生まれ持った性質である可能性があるということを意味します。このことを示す以下のような実験があります。

 

(実験)

発達心理学者の協力で2歳未満の幼児を対象に実験を行った。幼児にクラッカーを与えて喜んでいる場合と、次にそのクラッカーをぬいぐるみに分けるように教えられて実行した場合とでは、前者よりも後者の方が幼児達が大きく喜んだという結果になった。

 

(調査)

20万人を対象としたある調査では、前の月にチャリティーに寄付した人々は、寄付しなかった人々に比べて、人生により多くの満足感を感じていることが判明し、さらに詳しく分析すると、家庭の所得が2倍になったのと同じぐらい幸福度が上昇することが判明した。

 

このように人を助けたり与えたりすることで喜びを感じるのは、人類が比較的小さな集団で進化し、互いに依存しあう必要があったからだと考える研究者が増えているそうです。

 

以上から明らかになった通り、お金と幸福との関係では、「稼いだお金で、どんな経験をするか?」「稼いだお金を、誰のために使うか?」が重要であり、この2つをお金を稼ぐ理由として設定し、その上で目標を立てれば人生幸福度がさらにアップするということです。

 

皆様も人生幸福度アップのために、実践されてみませんか?

 

5 最後は、人生満足度に影響を与えるお金と愛の考え方の話です。

 

幸せはお金をたくさん稼ぐことだけでは得られません。ある調査データによると、お金と愛のどちらを重要視しているかによって人生の満足度が変わってくることが明らかになったそうです。すなわち、「お金は重要だが愛はあまり重要ではない」と考えている人は人生満足度が低い。これに対して「愛はとても重要だけどお金は重要ではない」と思っている人たちは人生満足度がとても高いという結果になったそうです。

 

したがってお金を最優先にして「人生の目標」を設定すると、幸せが遠のいてしまう可能性が無きにしも非ずなので、少し注意をした方がよさそうですね。

 

 

《以上は、「『幸せ』について知っておきたい5つのこと~幸せとは技術である。習慣を変えるだけで人生は9割変わる。」(NHK「幸福学」白熱教室 中経出版)及び「99.9%は幸せの素人」(星渉、前野隆司共著 株式会社KADOMAWA)より。》

 

※来月に続く!

 

弁護士法人 翼・篠木法律事務所

代表弁護士 篠木 潔

みらいわブログ 2021年12月号

お葬式ができない方が増えています

今年最後のブログとなりました。一年が経過するのはあっという間ですね。
子供の頃は時間が経つのが遅かった気がいたしますが、皆様はいかがでしょうか?
今年最後のブログは、私が今年、数回経験しましたお葬式ができない方(お葬式難民??)のお話です。

近年、財産はあってもご自分が亡くなった際にお葬式を執り行うことができない方が増えています。「えっ、そうなの?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
そのお葬式を執り行うことができない理由とは、適切な親族等がいないためにお葬式ができない、あるいはその費用の支払いを託す人がいないというものです。
令和元年のある調査では、世帯数でみると高齢者(65歳以上の方)のいる世帯数に占める65歳の単独世帯の割合は28.8%で、高齢者世帯の約3分の1に迫る勢いなのですが、このような状況からも上記のような事態が起こり得ることがうなずけます。
 そこでこのような事態を回避するため方法が問題となりますが、私のおすすめは生前に信頼できる人(専門家を含む)や法人に葬儀の執り行いや費用の支払い等を依頼しておくことです。
 その方法としては「死後事務委任契約」や「遺言書を作って遺言執行者に指示する」などがあります。社会福祉協議会でも、事前に預託金を預り、葬儀や納骨や各種債務の支払い等のサービスを行っているところもありますよ。
 今年、私は2件も他人様のお葬式を執り行いました。それはいずれも私が成年後見人をしている高齢者の方がお亡くなりになった事案なのですが、お二人とも親族はいらっしゃるものの、子供さんと疎遠となって連絡がとれないため、あるいはお子様がいらっしゃらずご兄弟も高齢のために、お葬式を執り行う人がいないというものでした。
 そこで、本来は成年後見人には葬儀を行う義務などないのですが、人道上も心情的にも放ってはおけないので、私が葬儀会社と打ち合わせをしてお通夜、告別式、火葬、お寺への納骨等をいたしました。お通夜と告別式には、亡くなるまで入所されていた介護施設の方が10名ほど参列して下さったので、ご本人もきっと喜ばれたに違いありません。
実は、ご親族がいないあるいは疎遠になられている方が亡くなった場合に問題が発生するのは、葬儀だけではありません。ご本人が亡くなった後に直ちに発生する事務として「死後事務」と言われるものはあるのですが、例えば、今回問題となった葬儀(通夜、葬式、火葬、埋葬、納骨、永代供養など)の他に、ご遺体の引き取り、関係機関への死亡等の通知(健康保険、年金、預貯金等)、医療費や水道光熱費や施設費や医療費などの債務の支払、居住先(施設、賃貸アパート)の明け渡し、残置物の処分、相続人への財産引渡しなど様々です。これは一体誰が行なうのか?という問題です。

このような死後事務を行うご親族や知人がいらっしゃらない、あるいはいらっしゃってもそのような面倒をかけたくないと思われている方は結構多いように思います。  私も、そのような方で、遺言書と死後事務契約を利用することによって対応することになっているお客様が5,6名いらっしゃいます。
ある80歳のご婦人の方でまだまだお元気なのですが、ご主人もお子様もいらっしゃいません。このため、この方はご自分にもしものことがあったら、ご遺産を、恵まれない方を支援する団体に寄付する旨の遺言書を作成され、その執行と共に債務の支払や葬儀等をすることを私に依頼されました。このため、私はその方の死後事務にどのようなものがあるかをその方とご一緒に考え、確認整理をしています。この確認整理は毎年更新しております。
その方が今年の夏に少しお加減が悪くなられたことをきっかけに、先日その方と二人で葬儀社に行って葬儀の内容を相談してきました。そして、祭壇や骨壺やお返しの品はどれがいい?などと多くのことを和気あいあいと二人で話し合いながら決めてきました。骨壺を決める際に、私はパンフレットの中にあった有田焼の美しい桜色の骨壺がいいのではと申しましたところ、その方は、「それはダメなのよ。だってご先祖様の白い素焼きの骨壺より良い物の中に新参者の私が入るのは申し訳ないでしょ? それに、『おまえは生意気だよ』ってお墓の中でご先祖様達からいじめられたら困るでしょ?」と言われました。そしてご先祖様と同じ白の素焼きの骨壺を選択されました。そして私に「こういうことって大事なのよ。先生も出る杭は打たれる状態にならないように気をつけてくださいね」とアドバイスして下さいました。
その日はその方が大好きな「ロイヤルホスト」で、二人で夕食をいただきました。その方はお葬式の準備ができたことで、とても安心されたご様子でした。

しかし…、私はふと考えました。
私がこの方の御葬儀を執り行うときには、この方はもうこの世にはいらっしゃいません。なので、私は依頼された弁護士として務めを果たす際には、お元気だったこの日のお姿や素敵な笑顔、骨壺選びの事、そして大好きな野菜スープを美味しそうに召し上がっておられたご様子などを思い出して、きっときっと涙があふれて止まらないと思います。今、そのことを考えるだけでも涙が出てきてしまうのですから。
私は随分以前に実母を亡くしており、この方とのお付き合いの中で、どことなく母親のようにも思えるので、私は2度も母親を失うことになるのでしょうね。「ご縁」というものは素晴らしいものではあるれど、悲しくもあります。

さて、今年もあとわずかとなりました。皆様この1年間ほんとうにご苦労様でした。
来年も「みらいわ」をよろしくお願いいたしますね。
それでは、皆様、よき新年をお迎えくださいませ。
  
  弁護士 篠木潔

みらいわブログ 2020年9月号

「心ふるえる詩」
~金子みすゞの詩を読まれたことはありますか?(第2回)

1 はじめに
 皆様、こんにちは。弁護士篠木潔です。
さて、前回のブログでは、私と金子みすゞの出会いについてお話しました。
今回は、金子みすゞの詩集の中で私が大好きな詩をいくつかご紹介させていただきますね。

2 皆様はどの詩がお好きですか?
私は好きな詩が多くて選ぶのに苦労するのですが(笑)、以下の詩はいつ見ても心がふるえます。これらの中で私が一番好きな詩は・・・・。??
これは最後に申しましょう。
皆様も以下の詩の中から最も好きな詩を一つだけ選んでみてください。

【蜂と神さま】
蜂はお花のなかに、
お花はお庭のなかに、
お庭は土塀のなかに、
土塀は町のなかに、
町は日本のなかに、
日本は世界のなかに、
世界は神さまのなかに。

そうして、そうして、神さまは、
小っちゃな蜂のなかに。

~とてもスケールが大きく宗教観・宇宙観を漂わせる詩です。その最大スケールの神様を、一挙に小っちゃな蜂の命へと返していく跳躍と着地が実にみごとです。「そうして、そうして」と間をとり、主語の「神様は」をわざと行の一番下にもってきて、最後は小さな蜂だけで締めくくる。こうすれば、どんなに小さな生き物の命にも神が宿っていることを上手に伝えることができますね。小っちゃな蜂の中にも神様がしっかりといらっしゃる。それで勇気や安心感が出てきますし、また、だからこそ簡単に壊れてしまいそうな小っちゃな命をも大切しなくちゃという思いが出てきます。これが金子みすゞのメッセージなのかもしれませんね。~

【積もった雪】
上の雪
さむかろな。
つめたい月がさしていて。

下の雪
重かろな。
何百人ものせていて。

中の雪
さみしかろな。
空も地面もみえないで。

~積もった雪を擬人化して3つの部分に分け、その気持ちを思いやる着想がおもしろいです。「上の雪」と「下の雪」のつらい気持ちは何となく理解できます。しかし、真ん中だから寒くないし重くもないので良さそうだと思われる「中の雪」が、そんな気持ちを抱いているだなんて思いもよりませんでした。世の中には私達の気づかない悲しみやつらさがたくさんあるのでしょうね。それを思いやる力が果たして自分にあるのでしょうか。ふとそう思わせてくれる詩ですね。雪を見るといつもこの詩を思い出します。~

【私と小鳥と鈴と】
私が両手をひろげても、
お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のように、
地面を速くは走れない。

私がからだをゆすっても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のように、
たくさんな唄は知らないよ。

鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがって、みんないい。

~この詩は小学校の国語の教科書にも載っている有名な詩です。一人ひとりの個性や違いを大切にするとともに、誰もがかけがえのない存在であるという、ゆるぎない確信が最後の行に表れています。短く生き抜いたみすゞの確信でしょう。それも「人」を超えて「みんなちがって、みんないい」と言い切っているところが気持ち良いです。なんてことないフレーズですが、とても力強く説得力がありますよね。
また、最後から2行目と題名とを見比べてみてください。私は最後から2行目の「鈴と、小鳥と、それから私」が題名の「私と小鳥と鈴と」と順番と逆になっているところも好きです。みすゞはどうしてそのようにしたのでしょうね? みすゞに尋ねてみたいです。~

【露】
誰にもいわずにおきましょう。

朝のお庭のすみっこで、
花がほろりと泣いたこと。

もしも噂がひろがって
蜂のお耳へはいったら、

わるいことでもしたように、
蜜をかえしに行くでしょう。

~なんとも可愛いみずみずしい詩ではありませんか。おとぎ話の世界です。ほろりとこぼれ落ちた露は花の涙なのでしょう。わるいことでもしたように、蜜を返しにいくであろう蜂も優しいし、誰にも言わずにおきましょうというまなざしも温かい。身近な庭の隅っこに、誰も知らないこのように気遣う世界があるのですね。それを七五調の優しい音律で教えてくれています。わずか6行の詩ですが、みすゞの優しいまなざしに涙が出そうです。この「露」は私が一番大好きな詩です。

皆さまはどの詩がお好きでしたか?
皆さまもぜひ金子みすゞの「詩集」を手にしてみてください。みすゞは様々な対象をモチーフに、雰囲気も変えていろんなことを私たちに伝えようとしてくれています。このため、同じ詩でもその時々で私たちの感じ方や詩の味わいが異なる場合もあります。それゆえ、みすゞの詩は大切なことをたくさんたくさん教えてくれますよ。
詩や歌は静かに私たちを支える力になってくれます。

私は、こんなに素晴らしい詩を書く金子みすゞに一度会ってみたかったです。

弁護士篠木潔

(詩の出典「金子みすゞ童謡全集」(JULA出版局)より)

みらいわブログ 2020年8月号

「心ふるえる詩」
~金子みすゞの詩を読まれたことはありますか?(第1回)

1 はじめに
 皆様、お元気ですか。弁護士篠木潔です。
新型コロナはなかなか収束せず、社会は第2波のおそれにおののき、そんな中、豪雨災害も相次ぎ、さらに夏の暑さで熱中症への対策も必要です。皆様も、くれぐれもお体ご自愛くださいませ。

2 金子みすゞの詩との出会い
さて、これから私の大好きな詩人の話をさせていただきます。
皆さまは、金子みすゞの詩を読まれたことはありますか? 東日本大震災の後、「こだまでしょうか」という詩がテレビで流れていたのでご存知の方も多いかと思います。「私と小鳥と鈴と」は小学校の教科書にも取り上げられましたね。
私は金子みすゞが大好きです。彼女の詩は私の心の原点であり戒めともなっており、彼女に深く感謝しています。
私は今年で弁護士歴23年ですが、弁護士になって5年目が経過した頃、私は法的知識を駆使して事件を迅速に解決できる優秀な?弁護士となり、周囲からも先生先生と持ち上げられ少し傲慢になっていました。人間の欲や欺瞞が渦巻く日常紛争業務の中で私の心も殺伐としていました。多くの依頼者の方にも様々な苦悩や悲しみがあるにもかかわらず、それに全く配慮することなく上から目線で「事件」の「処理」にあけくれ、勝訴を自慢していました(このためか私はこれまで裁判で3回しか負けたことがありません)。
そんな折、私は出張先で時間つぶしに立ち寄った本屋さんで、ある詩集が目に留まり何気なく手に取ったのです。それが金子みすゞの童謡集でした。そして、帰りの新幹線の中でその詩集を読んで強い衝撃を受けました。それは「大漁」という詩でした。

3 何万の鰮(いわし)のとむらい
 大漁
朝焼小焼だ
大漁だ。
大羽鰮の
大漁だ。

浜はまつりの
ようだけど
海のなかでは
何万の
鰮のとむらい
するだろう。

浜で大賑わいの人間様の知らないところで、なんと、何万のいわしのお葬式が行われているというのです。誰かの幸せの陰で見過ごされがちな小さな命の悲しみに思いを寄せた詩です。それをわずかな行数と子供でも分かる簡単な言葉で表現しています。見えないけれども確かに存在する弱いものへの直観力と慈愛に満ちたまなざし、そして浜から一気に水面下へと視点を移して対照化する力強さが好きです。
列車の中で一時の安息のため、心が無防備だったのでしょうか。私はわずか十行のこの詩を読んで、涙がポロポロとこぼれてきて止まらないのです。私の割り切った弁護士活動の中で傷ついた関係者の方も大勢いらっしゃっただろうと深く反省しました。そして私も金子みすゞと同じような目と心を持ちたいと思いました。
そうして手に取った童謡集を読み進める中で私がもっと驚いたのは、そんな慈愛に満ちたこの詩人が、当時「若き童謡詩人の巨星」と称賛されながらも半世紀にわたってその詩が埋もれていたこと、そして夫に詩作を禁止され不遇な人生を過ごし26歳の若さで自死してしまったということです。
何ということだろう。こんなに素敵な詩を書ける人なのにどうして?? やりきれなさで心がふるえました。
私はそれ以来、何かあるとみすゞの詩集に触れています。つらいことがあったとき、傲慢になりそうなとき、仕事に疲れたときなど様々です。毎年正月にも必ず読むようにしています。それは新年の自分への戒めのためと大好きなみすゞと会話をしたいと思うからです。
この「大漁」の詩が私の出発点となりました。

いかがですか? よくもまあ、こんな優しく素敵な詩が書けるものだとつくづく感心いたします。皆さまもぜひ金子みすゞの詩集を手にしてみてください。いろんな詩が載っていますよ。

次回ブログでは、金子みすゞの詩集の中で私が大好きな詩をいくつかご紹介いたしますね。                  (続く)

弁護士 篠木潔

(詩の出典「金子みすゞ童謡全集」(JULA出版局)より)

みらいわブログ 2019年6月号

「犬と猫」

一 心癒されるもの
 皆様、こんにちは。弁護士の篠木です。
 皆様はペットを飼われていますか?
 一口にペットと言っても犬、猫、ハムスター、メダカなど様々です。
 ペットは生き物に対する慈愛の心を育むだけでなく、家族も同然なので、とても心が癒されます。あるアンケートでは、多くの人が、ペットは「生活に喜びを与えてくれる大切な存在」、また「健康面や精神面、及び人と人とをつなぐコミュニケーションにおいても重要な存在である」と回答しています。
 ちなみに、平成30年度のある統計では、全国の犬と猫の飼育頭数(推計)は、犬が890万頭で猫が965万頭といずれも多く、犬猫が人間にとってどれほど必要な存在であるかが分かります。
 そんな中、私も猫を飼い始めました。猫種はスコティッシュフォールドといって耳が前に垂れている可愛い白猫です。私の希望の光になって欲しいのと、源氏物語の光源氏のように美しい雄猫になって欲しかったので、名前は「篠木光」君と名付けました。親バカならぬ猫バカですね(笑)。
 両手の掌で包むことのできた800グラムの子猫ちゃんは、わずか1年でなんと4キロにもなってしまいました。しかしそれでも光君はとても可愛く、私は日々癒されています。

二 皆様は犬派?それとも猫派?
 ここで質問ですが、皆様は犬と猫とではどちらの方がお好きですか?
 私は、以前は飼い主の命令をよく聞く従順な犬の方が好きでしたが、高校時代に初めて猫を飼って、一発で猫の魅力にとりつかれてしまいました。
 猫は人の命令に従いません。「お腹が空いたニャア」と体全体ですり寄ってくるかと思えば、気分が向かねばどんなに名前を呼んでも振り向きもしません。つれない態度ですよね。
ところが猫はシッポで様々な感情表現をしてくれます。シッポをまっすぐにピーンと立てて歩いている時は気分が良く自分を見て欲しいという証拠。驚いたときはシッポが3倍くらい太くなります。しっぽがせわしく右左に揺れている時は何? それは気分が悪かったり戸惑ったりして危険な目印です。
また、猫は大変綺麗好きで、食事の後はいつも時間をかけて丁寧に毛づくろいをします。犬とは違い体臭がほとんどないのは得点が高いです。
猫は高いところ、狭いところが大好きです。空き箱を置いてあげると、その中で丸くなって寝てしまう姿はほんとに可愛いです。
そうそうご存知ですか? 猫の体に私達の顔をうずめると「日なた」の香りがするんですよ。
また、猫は器用に手を使うことができます。いわゆる猫パンチのほか、両手で上手に玉を取りますし、水を手ですくって飲むことのできる猫ちゃんもいます。だから、異論はおありでしょうが、私は、サルと同じく手を使える猫の方が犬よりも実は賢いのではないかと思っております。
 自己の意思に反して人間に媚びることをせず、しかし人間社会に上手に溶け込んでいる猫族は、私は「さすがだニャア」と思います。

三 犬と猫の運命
 ところで皆さん、最近は以前のように野良犬を見かけなくなったと思いませんか? 私の子供の頃は至る所に野良犬がいて、恐ろしい目に遭うことも頻繁にあったのに。なぜ最近では野良犬を見かけなくなったのか?
 実はそれは各地方自治体が、狂犬病予防法や条例に基づき野良犬や飼主の不明な犬を捕獲し積極的に殺処分にしているからなのです。猫には狂犬病予防法のような法律がないため自治体が積極的に捕獲することはできません。だから野良猫が増えて逆に野良犬は減っているのだとばかり思っていました。そうだとしたら、犬族は可哀想だニャアと思いました。
 ところがよ~く調べてみると、なんとなんと殺処分にされている数は犬よりも猫の方が圧倒的に多いのです。これは猫派の私にとっては大変ショックでした。昨年12月に公表された環境省の平成29年度の殺処分の統計では、犬は約8300頭、猫はなんと3500頭でした。ちなみに平成25年度は犬が約2万9000頭、猫はなんと10万頭と驚くべき数字でした。どうしてこんなにたくさんの猫が殺処分にされているのでしょうか?
 それはいわゆる動物愛護法で、行政が犬猫の所有者や拾った者からその引取りを求められたときはこれを引き取る義務があり、この引き取られた犬猫が保健所や動物愛護センター等で処分されているからなのです。狂犬病予防法の対象外の猫たちであっても、決して油断のできない恐ろしい法律です。動物「愛護」法という名称なのに、殺処分を適法化する法律なんですね。とても驚きです。
 処分される犬猫の中には、飼い主が飼うことができずに、捨てたり保健所などに持ち込まれたりする例も多いようです。前述のように、人間はあんなにも犬猫を必要としていたはずなのに、人間と同じ「命」があるのに、人間様は本当に身勝手なものです。

四 高齢者とペット
 そんな中、近年では高齢者の方々がペットを飼う例が増えてきています。様々な不安を抱えることの多い高齢者の方にとっては、ペットを飼うことで「情緒が安定するようになった」「寂しがることが少なくなった」と感じられる方が多いそうです。ペットの癒し効果です。
 しかし一方で、ペットを飼育することで介護に支障を来たす例も出始めています。すなわち、身体の衰えや認知症のために在宅生活が困難となって施設に入所する必要があるにもかかわらず、「ペットと離れたくない」「ペットを一人おいていけない」と入所を拒まれるのです。
 それはそうでしょう。ご本人にとっては、ペットは家族なのですから。犬猫の寿命は十数年と長いので、飼い主の年齢次第では犬猫よりも先に亡くなられるという場合も少なくありません。だから、ご自分が施設に入ったら…、もし自分が死んでしまったら…と犬猫のことを心配されるのですよ。
 残念ながら現時点で犬猫と同居できる施設はめったにありませんが、今後は、余生を、心癒されながら過ごすためにも、ペットと同居できる施設が数多く増えるとうれしいですね。

 私は現在56歳ですので、光君が天寿を全うするころには、私はもう高齢者になっているかもしれません。それゆえ、私は光君をしっかりと看取るためにも健康に気をつけて弁護士の仕事をやっていこうと思います。
 そうしてこれからも光君と仲良く毎日を過ごし、私の希望の光となってくれた光君がとうとう天寿を全うした時は、きっと私は何日も何日も大泣きをしてしまうことでしょう。
                           おわり

弁護士 篠木潔

みらいわブログ 2018年5月号

「合理的配慮」という考え方をご存知ですか??

一 皆さまは次の事例は差別にあたると思われますか?
①ある旅館は、警報音が聞こえないと火災等の緊急時の避難誘導に支障をきたすことを理由に、耳が全く聞こえない方の宿泊を断っている。
②知的障害のあるAさんは市役所から届いた障害年金のパンフレットの漢字が読めないので、フリガナを付ける等もっと分かり易くして欲しいと求めたが、係員からそういうパンフレットは準備できていないと断られた。
 この二つの事例の違いは、①は障がい者であることに着目して不利益な取扱いをしているのに対し、②はそうではなく、単に障がい者が困っている状況に積極的には配慮ができていないというに過ぎない点です。
 例えば①の事例のように障がいを理由とする不利益な取り扱いが差別にあたるのは今や常識ですが、ここではさらにそれを超えて障がい者に対する積極的な配慮(ある意味「優遇」)をしないことで「差別」と同じことなってしまうのかということが問われています。
二 大きな転換をもたらす障害者差別解消法
 国連での障害者権利条約や我が国の障害者基本法の理念を具体化した「障害者差別解消法」(以下「本法」と言います)が、平成28年4月に施行されました。
本法では、行政機関や事業者に対し、その事業を行うに当たり、個々の場面において、障がい者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障がい者の権利利益を侵害することとならないよう社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮(「合理的配慮」)を行うべきことを求めています(但し、事業者は努力義務にとどまる)。
 それゆえ、事例②で市役所がAさんの求めをそのまま放置していると法律違反になり「差別」にあたる可能性があります。
三 成長する「平等」「差別」の考え方
 本法によって実務的にも障がい者差別の考え方が大きく変わり、現在、行政機関や一般企業は従来とは異なる大きな対応を迫られています。
 その基になっている障害者権利条約の「障害」の考え方は、障がい者の日常社会生活に不利益や困難は、本人の心身の機能障害だけに起因するのではなく、むしろ社会における様々な障壁(環境)と相対することによって生ずるという考え方(社会モデル)です。
つまり周りの環境が適切に整備され他者が配慮すれば、心身の障がい
による不利益状態(障がい、差別)は解消されると考えるのです。
言われてみれば確かにそうですよね。
だから一定の場合に障がい者に合理的配慮をしないならば、なんと「差別」と同じなのだと考えることにしたのです。
 このように人類はここに至って「平等」や「差別」の考え方をさらに進化させました。
黒人差別が良くないことだと人類が気付いたのは、アメリカ合衆国大統領リンカーンの南北戦争の頃だし、日本人が女性差別は良くないことだと気付いたのは戦後になってからでした。
そしてようやく今、障がいは環境が生み出すという側面があり、障がい者に対して配慮しないことが、場合によって差別と同じことになると考えるようになったのです。
「基本的人権」は「生き物」だと言われることがありますが、基本的人権はどんどん成長しているのですね。

弁護士 篠木 潔