みらいわブログ 2018年5月号

「合理的配慮」という考え方をご存知ですか??

一 皆さまは次の事例は差別にあたると思われますか?
①ある旅館は、警報音が聞こえないと火災等の緊急時の避難誘導に支障をきたすことを理由に、耳が全く聞こえない方の宿泊を断っている。
②知的障害のあるAさんは市役所から届いた障害年金のパンフレットの漢字が読めないので、フリガナを付ける等もっと分かり易くして欲しいと求めたが、係員からそういうパンフレットは準備できていないと断られた。
 この二つの事例の違いは、①は障がい者であることに着目して不利益な取扱いをしているのに対し、②はそうではなく、単に障がい者が困っている状況に積極的には配慮ができていないというに過ぎない点です。
 例えば①の事例のように障がいを理由とする不利益な取り扱いが差別にあたるのは今や常識ですが、ここではさらにそれを超えて障がい者に対する積極的な配慮(ある意味「優遇」)をしないことで「差別」と同じことなってしまうのかということが問われています。
二 大きな転換をもたらす障害者差別解消法
 国連での障害者権利条約や我が国の障害者基本法の理念を具体化した「障害者差別解消法」(以下「本法」と言います)が、平成28年4月に施行されました。
本法では、行政機関や事業者に対し、その事業を行うに当たり、個々の場面において、障がい者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障がい者の権利利益を侵害することとならないよう社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮(「合理的配慮」)を行うべきことを求めています(但し、事業者は努力義務にとどまる)。
 それゆえ、事例②で市役所がAさんの求めをそのまま放置していると法律違反になり「差別」にあたる可能性があります。
三 成長する「平等」「差別」の考え方
 本法によって実務的にも障がい者差別の考え方が大きく変わり、現在、行政機関や一般企業は従来とは異なる大きな対応を迫られています。
 その基になっている障害者権利条約の「障害」の考え方は、障がい者の日常社会生活に不利益や困難は、本人の心身の機能障害だけに起因するのではなく、むしろ社会における様々な障壁(環境)と相対することによって生ずるという考え方(社会モデル)です。
つまり周りの環境が適切に整備され他者が配慮すれば、心身の障がい
による不利益状態(障がい、差別)は解消されると考えるのです。
言われてみれば確かにそうですよね。
だから一定の場合に障がい者に合理的配慮をしないならば、なんと「差別」と同じなのだと考えることにしたのです。
 このように人類はここに至って「平等」や「差別」の考え方をさらに進化させました。
黒人差別が良くないことだと人類が気付いたのは、アメリカ合衆国大統領リンカーンの南北戦争の頃だし、日本人が女性差別は良くないことだと気付いたのは戦後になってからでした。
そしてようやく今、障がいは環境が生み出すという側面があり、障がい者に対して配慮しないことが、場合によって差別と同じことになると考えるようになったのです。
「基本的人権」は「生き物」だと言われることがありますが、基本的人権はどんどん成長しているのですね。

弁護士 篠木 潔