みらいわブログ 2021年12月号

お葬式ができない方が増えています

今年最後のブログとなりました。一年が経過するのはあっという間ですね。
子供の頃は時間が経つのが遅かった気がいたしますが、皆様はいかがでしょうか?
今年最後のブログは、私が今年、数回経験しましたお葬式ができない方(お葬式難民??)のお話です。

近年、財産はあってもご自分が亡くなった際にお葬式を執り行うことができない方が増えています。「えっ、そうなの?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
そのお葬式を執り行うことができない理由とは、適切な親族等がいないためにお葬式ができない、あるいはその費用の支払いを託す人がいないというものです。
令和元年のある調査では、世帯数でみると高齢者(65歳以上の方)のいる世帯数に占める65歳の単独世帯の割合は28.8%で、高齢者世帯の約3分の1に迫る勢いなのですが、このような状況からも上記のような事態が起こり得ることがうなずけます。
 そこでこのような事態を回避するため方法が問題となりますが、私のおすすめは生前に信頼できる人(専門家を含む)や法人に葬儀の執り行いや費用の支払い等を依頼しておくことです。
 その方法としては「死後事務委任契約」や「遺言書を作って遺言執行者に指示する」などがあります。社会福祉協議会でも、事前に預託金を預り、葬儀や納骨や各種債務の支払い等のサービスを行っているところもありますよ。
 今年、私は2件も他人様のお葬式を執り行いました。それはいずれも私が成年後見人をしている高齢者の方がお亡くなりになった事案なのですが、お二人とも親族はいらっしゃるものの、子供さんと疎遠となって連絡がとれないため、あるいはお子様がいらっしゃらずご兄弟も高齢のために、お葬式を執り行う人がいないというものでした。
 そこで、本来は成年後見人には葬儀を行う義務などないのですが、人道上も心情的にも放ってはおけないので、私が葬儀会社と打ち合わせをしてお通夜、告別式、火葬、お寺への納骨等をいたしました。お通夜と告別式には、亡くなるまで入所されていた介護施設の方が10名ほど参列して下さったので、ご本人もきっと喜ばれたに違いありません。
実は、ご親族がいないあるいは疎遠になられている方が亡くなった場合に問題が発生するのは、葬儀だけではありません。ご本人が亡くなった後に直ちに発生する事務として「死後事務」と言われるものはあるのですが、例えば、今回問題となった葬儀(通夜、葬式、火葬、埋葬、納骨、永代供養など)の他に、ご遺体の引き取り、関係機関への死亡等の通知(健康保険、年金、預貯金等)、医療費や水道光熱費や施設費や医療費などの債務の支払、居住先(施設、賃貸アパート)の明け渡し、残置物の処分、相続人への財産引渡しなど様々です。これは一体誰が行なうのか?という問題です。

このような死後事務を行うご親族や知人がいらっしゃらない、あるいはいらっしゃってもそのような面倒をかけたくないと思われている方は結構多いように思います。  私も、そのような方で、遺言書と死後事務契約を利用することによって対応することになっているお客様が5,6名いらっしゃいます。
ある80歳のご婦人の方でまだまだお元気なのですが、ご主人もお子様もいらっしゃいません。このため、この方はご自分にもしものことがあったら、ご遺産を、恵まれない方を支援する団体に寄付する旨の遺言書を作成され、その執行と共に債務の支払や葬儀等をすることを私に依頼されました。このため、私はその方の死後事務にどのようなものがあるかをその方とご一緒に考え、確認整理をしています。この確認整理は毎年更新しております。
その方が今年の夏に少しお加減が悪くなられたことをきっかけに、先日その方と二人で葬儀社に行って葬儀の内容を相談してきました。そして、祭壇や骨壺やお返しの品はどれがいい?などと多くのことを和気あいあいと二人で話し合いながら決めてきました。骨壺を決める際に、私はパンフレットの中にあった有田焼の美しい桜色の骨壺がいいのではと申しましたところ、その方は、「それはダメなのよ。だってご先祖様の白い素焼きの骨壺より良い物の中に新参者の私が入るのは申し訳ないでしょ? それに、『おまえは生意気だよ』ってお墓の中でご先祖様達からいじめられたら困るでしょ?」と言われました。そしてご先祖様と同じ白の素焼きの骨壺を選択されました。そして私に「こういうことって大事なのよ。先生も出る杭は打たれる状態にならないように気をつけてくださいね」とアドバイスして下さいました。
その日はその方が大好きな「ロイヤルホスト」で、二人で夕食をいただきました。その方はお葬式の準備ができたことで、とても安心されたご様子でした。

しかし…、私はふと考えました。
私がこの方の御葬儀を執り行うときには、この方はもうこの世にはいらっしゃいません。なので、私は依頼された弁護士として務めを果たす際には、お元気だったこの日のお姿や素敵な笑顔、骨壺選びの事、そして大好きな野菜スープを美味しそうに召し上がっておられたご様子などを思い出して、きっときっと涙があふれて止まらないと思います。今、そのことを考えるだけでも涙が出てきてしまうのですから。
私は随分以前に実母を亡くしており、この方とのお付き合いの中で、どことなく母親のようにも思えるので、私は2度も母親を失うことになるのでしょうね。「ご縁」というものは素晴らしいものではあるれど、悲しくもあります。

さて、今年もあとわずかとなりました。皆様この1年間ほんとうにご苦労様でした。
来年も「みらいわ」をよろしくお願いいたしますね。
それでは、皆様、よき新年をお迎えくださいませ。
  
  弁護士 篠木潔