(先月に引き続き今月もカスタマーハラスメントの話題です!)
事業主は、カスタマーハラスメント(カスハラ)を防止し従業員を守るために、どのようなことをすれば良いのでしょうか?
一 「カスタマーハラスメント」を想定して、急ぎ事前の準備をしましょう
その事前の準備とは、カスハラの防止や発生した場合の体制を構築することです。
1 まず、事業者としての基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発を実施しましょう。
企業として、職場におけるカスハラをなくす旨の方針を明確にし、トップ自ら発信することが重要です。企業として、基本方針や姿勢を明確にすることにより、企業が従業員を守り、尊重しながら業務を進めるという安心感が従業員に育まれます。企業の姿勢が明確になることで、カスハラを受けた従業員や周囲の従業員も、トラブル事例や解消に関して発言がしやすくなり、その結果、トラブルの再発を防ぐことにもつながるのです。
基本方針・基本姿勢は文書化し、カスハラは許さないという強い意思を社内と社外に宣言し、さらにカスハラの防止がなぜ必要なのか、カスハラとはどういう行為のことを言うのかについて具体例を挙げて示すことが大切です。
最近ではこのことの重要性が知られ、事業者のホームページで謳われたり、ポスターとして掲示されていることも見かけるようになってきました。とても良い取り組みですね。
例えば、7月号でご紹介した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf)では、短いけれど効果のある基本方針が例示されておりました。
「弊社は、お客様に対して真摯に対応し、信頼や期待に応えることで、より高い満足を提供することを心掛けます。
一方で、お客様からの常識の範囲を超えた要求や言動の中には、従業員の人格を否定する言動、暴力、セクシャルハラスメント等の従業員の尊厳を傷つけるものもあり、これらの行為は、職場環境の悪化を招く、ゆゆしき問題です。
わたしたちは、従業員の人権を尊重するため、これらの要求や言動に対しては、お客様に対し、誠意をもつて対応しつつも、毅然とした態度で対応します。
もし、お客様からこれらの行為を受けた際には、従業員が上長等に報告・相談することを奨励しており、相談があった際には組織的に対応します。」
2 次に、従業員(被害者)のための相談対応体制を整備することが重要です。
これは従業員が安心して仕事をできるようにするためのものでもあります。
そのために、カスハラを受けた従業員が相談できるよう相談対応者を決めておく、または相談窓□を設置し、従業員に広く周知します。
他方、そのような体制を整えたとしても肝心の相談対応者が稚拙な対応をしてしまうと、被害に遭った従業員は安心できないだけでなく、その稚拙な対応によって傷つくことにもなりかねません(二次被害の発生)。
例えば、相談対応者が相談者の傾聴が不十分な段階で自己の意見を言ったり、「あなたの行動にも問題があったのではないか」と責めたり、「そんなことは大したことではない」とか「無視すれば良い」などと被害者の気持ちを害するような相談対応はやってはいけません。なぜなら、被害者がこれ以上相談することができなくなり、相談体制を構築した意味がなくなるからです。
したがって、相談対応者が相談の内容や状況に応じ適切に対応できるよう訓練を受けておくことが大切です。この点はとても重要です。
3 カスハラの行為への対応方法や手順等を予め決めておきましょう。
これは、いわゆる対応マニュアルの策定であり、それを役職員全員で共有することです。これを作って共有しておけば、従業員が統一した適切な対応をすることが可能となり、早めの段階でカスハラを止めることができるだけでなく、従業員にも対応の仕方が分かるので精神衛生上も良いのです。従業員の対応のまずさが、単なるクレームを悪質なカスハラへと変えてしまうことが多々ありますので、それを防止するという点でもマニュアルは有益です。
その点では、初期対応はとても重要ですし、初心に返って「クレーム対応」のスキルを再確認することも大切ですね。
なので、カスハラ対策とクレーム対策を別物と考えず、一体的に考えて運用していきましょう。
4 社内対応ルールについて従業員等を教育し、そのために研修を実施しましょう。
これは、顧客等からの迷惑行為、悪質なクレームに対応できるように、日頃から研修等を通して従業員への教育を継続的に実施していくことを意味します。
研修等については、アルバイトも含め可能な限り全員が受講し、かつ定期的に実施してください。
教育する内容としては、カスハラを放置しない、カスハラから従業員を守るという事業主のメッセージを含めることや、予め定めた対応方法や手順、顧客等への接し方のポイントといった接客実務に関する内容を盛り込むことが求められます。
その一例として、次のようなものが考えられます。
①悪質なクレーム(カスハラ)とは何か?(定義や該当行為例、正当なクレームとの相違)
②カスハラの判断例(判断基準やその事例)
③パターン別の対応方法
④苦情対応の基本的な流れ
⑤顧客等への接し方のポイント(謝罪、話の間き方、事実確認の注意点等)
⑥記録の作成方法
⑦各事例における顧客対応での注意点
⑧ケーススタディ
過去に職場で発生した事案、経験等を踏まえた事例やケーススタディを設けると、より効果的な内容になると考えられます。また、階層別に経営層や相談対応者(上司、現場監督者)への教育・研修を行うことも重要です。
二 「カスタマーハラスメント」が実際に起こった際の対応は?
1 できる限り、カスハラの事実を示す証拠をとっておきましょう。
事実(=カスハラ)の有無は証拠や証言を基に判断されますので、このことは非常に重要です。それゆえ、証拠(=それによってある特定の事実を推認できる力を有するもの)について少し説明いたしますね。
①証拠となる書類(文書)について
被害従業員の業務日誌は、当事者本人が作成したものゆえ証拠力がないと考えられがちですが、その都度記録作成したものは、問題が顕在化して事実の有無について争いになった後に作成されたものより、作為が入り込む余地が少ないので、信用性が高い証拠として扱われます。
事実認定を行う裁判の世界では、以下のような文書(供述内容を記録した文書を含む)は信用性の高いものとして扱われます。
ア)紛争が顕在化する前に作成された文書
イ)紛争当事者と利害関係のないものが作成した文書
ウ)事実があった時点に近い時期に作成された文書
エ)記載行為が習慣化されている文書
オ)自己に不利益な内容を記載した文書
②人の供述や証言について
同じ職場の従業員(=ある意味、被害者と仲間)でも、供述が具体的であれば、もちろん信用性は高まります。
では、人の供述や証言の内容の信用性はどうやって判断すれば良いのでしょうか?
考慮すべき要素には次のようなものがありますので、事情聴取の際に意識しておくと便利です。
ア)供述者と事件当事者との間の利害関係の有無、程度
イ)供述者の態度
ウ)供述の性質(当該供述者が知り得る内容かや、伝聞であるかどうかなど)
エ)供述過程(当該事実の認識、記憶、表現、叙述)の正確性
オ)供述内容の合理性、一貫性、具体性(迫真性)
③相手のカスハラ行為を録音・録画することの可否について
結論的には、承諾を得ずに録音・録画したとしても、裁判上の証拠として利用することは可能であり、当然に違法となるものではありません。
但し、プライバシーに配慮して、なるべく録音・録画は必要な範囲に限定しましょう。
さらに、録画・録音内容に個人情報が入ることも当然あり得ますので、事業主の「個人情報の利用目的」として、「苦情の解決」、「ハラスメントへの対応」、「お客様や関係者様のお話の内容等の記録」等を明記しておき、ホームページのどこかに、「サービスの品質向上や対応のために会話等を録音・録画させていただく場合があります」と注意喚起しておくと良いです。
2 次に、事実関係の正確な確認とそれに基づいた事案への適切な対応を行うことです。
そのために、カスハラに該当するか否かを判断するため、顧客、従業員等からの情報を基に、その行為が事実であるかを確かな証拠、証言に基づいて確認します。
そして、確認した事実に基づき、商品に不具合がある、またはサービスに過失がある場合はしっかりと謝罪し、速やかに商品の交換・返金に応じましょう。対応の遅れはカスハラを誘引する恐れがあるので気を付けて下さい。
他方、当方に不具合や過失がない場合は、相手の要求等に応じないことが原則です。安易に応じてしまうと、それが他の顧客にも伝わり、新たなカスハラを誘発する危険があります。
なお、事実確認の際、カスハラの行為者はいろんなことを言ってくるので、その「言い分」に注意してください。
顧客等にハラスメントに至った経緯を確認する際、①「言ってない」「やってない」などの「事実の否定」、②「そんなつもりではない」などの「言動の正当化」、③「その従業員の受け止め方の問題だ」「その前にその従業員が失礼なことをした」などの「責任転嫁」・・・などが発生するケースがあり、それぞれによって適切な方策を考えて対応しましょう。
この点のポイントですが、「①事実の否認」がもっとも厄介です。
カスハラの事実の有無については、証拠の評価や事実認定のスキルが必要なので、そのスキルをしっかり学ぶか、あるいは顧問弁護士等に相談しながらやった方が無難です。
他方、「②言動の正当化」と③「責任転嫁」は、カスハラの事実自体は認めているのでやり易いです。カスハラの事実自体は存在することを押さえたうえで、行為者の言い分の是非や問題点を分かりやすく相手に説明する工夫をし、その際、相手の心情にも配慮しつつ、相手を追い込まずに、相手に理解を求めることが大切です。
3 悪質なカスハラ行為に対しては、警察に被害届を出したり、店舗への出入りを禁止したり、継続的な取引をしている顧客の場合には、契約解除を検討したりしましょう。
なお、契約解除は、それがしやすいように、取引契約書やサービス利用契約書の中で、具体例を挙げてカスハラ行為を禁止し、万が一、顧客がそれに違反して、継続的な取引やサービス提供に支障を来した場合は、債務不履行として直ちに解除できる旨の条項を設けておくことが大切です。
なので、事業者の皆様は、自社の取引契約書の禁止条項や解除条項を再確認されてください。
4 従業員への配慮を怠らないこと。
従業員がカスハラの被害を受けた場合、速やかに被害を受けた従業員に対する配慮の措置を行う必要があります。対応すべき事項として、「従業員の現場での安全確保」や「従業員の精神面への配慮」があります。
前者については、現場監督者が顧客対応を代わり、顧客等から従業員を引き離す、状況に応じて弁護士や管轄の警察と連携を取りながら、本人の安全を確保する等の対応があります。
後者については、従業員にメンタルヘルス不調の兆候がある場合、業務を軽減したり、医師やカウンセラー等への受診を促したりします。また、セクハラを受けた事案では、同性の相談対応者が対応する等、被害内容にあわせた配慮も必要ですね。
5 再発防止のための取組みを行う。
そのために、当該事案の過程を振り返って発生原因を検討して、対応策を立てましょう。例えば、従業員の接客態度の悪さがカスハラの要因になった可能性がある場合は、その接客対応の改善によって再発防止に取り組むなどです。
また、事案が発生した場合は、可能であれば、従業員に対して何らかのメッセージ・情報の発信をするとよいでしょう。管理職が現場の従業員に注意喚起や対応策の再確認をするだけでも効果があります。
また、これまで継続してきたカスハラ防止の取組みを定期的に見直してアップデートすることも重要です。
6 以上の取り組みと併せて行うべきこととして、以下のようなことが挙げられます。
①相談者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員に周知する。
②相談したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、従業員に周知する。
以上、長くなり申し訳ありません。
以上のブログは、前述の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」の内容を引用しつつ、適宜私が加筆したものです。このマニュアルはもっと詳しく解説してくれていますので、カスハラ対策を実施されたい方は、ぜひぜひ参考になさって下さい。
最後までお読みいただきありがとうございました(感謝!)。
以上
弁護士法人翼・篠木法律事務所
弁護士 篠木 潔
